家事シェア=家族のカタチやあり方
― 家事シェアという言葉を初めて聞く方もいらっしゃると思うので、教えて頂けますか?
「家事を分担する」という言葉をよく聞くと思いますが、私たちはあえて”分担”とは言わないで”シェア”という言い方をしています。
なぜかというと、家事分担というとママが本来担っている家事を、パパや子ども達にふり分けていくというイメージになってしまいますよね。
でも、家事というはの本来は家族全員のもの。そういった前提に立って”家事シェア”という言葉を使っています。
上手に分担するということではなく、元々家事は家族全員のもので、家族全員に関わることだと捉えようという意図の表れです。
家事分担といった時は、家事のやり方=手段のことだと思っていて、家事シェアと言った時は家族のカタチやあり方を表すのかなと思っています。
― 家事シェアを始められたきっかけは?
NPO法人tadaimaを立ち上げる前は、フリーランスのインテリアコーディネーターをしていました。
当時からお客さん達の家を「ただいま」って帰りたくなるような家にしたいという思いがありました。ただ、そのために何をどのようにしたらいいのか分からなかったので、100人のパパさんやママさん方に色々ヒアリングをして、話を聞かせてもらったことがあるんですね。
「ただいま」って帰りたくなる家庭であるために、どんなことが重要なのかという観点から質問をさせて頂きました。
その時に気づいたのは、楽しそうにしている家族の中には、家事や育児などを上手にシェアしている人たちの割合が多いということでした。
僕は当時まだ子どもがいなかったので、育児のことはよく分かりませんでした。
なので、「家事シェア」を男性にも訴えていくことが、ひいてはパパさん達が家に帰りたくなるような家族関係をつくることにすごく役に立つんじゃないか。そんな仮定を持ってtadaimaを立ち上げました。
― 会社員などのご経験はありますでしょうか?
大学を出てから2年間は専門学校に通って、その後2年間設計事務所に就職しました。その後独立してフリーランスなりました。
学生の時から独立を考えていて、もともとカフェをやりたかったんです。子どもの時にいじめられた経験が割と自分の中では根深く残っていて、どこかの組織で一緒に働くみたいなことに対する抵抗感は、当時強かったんですよね。
なので自分のキャリアとしては「独立できること」と「人の居場所を作る」というテーマがずっと軸になっているのかな、と。
自分がずっと居場所がない状態だったので、居場所を作りたいという想いがあると思います。
― 起業した時はまだ結婚されていなかったのでしょうか?
ちょうど結婚直前でした。結婚する前に起業しようかな、と今の妻に話していて。
でも「起業したら無職になる」つまり、収入の目処が立たなくなるのでプロポーズできないなぁみたいな話をしていたら、妻が「私にちゃんと収入があるから大丈夫よ。中途半端なことしないで、ちゃんと起業しなさい」と背中を押してくれたんです。
ただ、私に「収入があるからやめても大丈夫」って言ってた妻が、その後2ヶ月後ぐらいに起業するっていう展開がありました。あの頼もしい言葉はどこにいったんだ!?と(笑)。
― そうだったんですね。2人とも起業をする中、ある程度収入を得ていくためにどのように動かれていたんですか?
最初は自分たちで考えている事業だけではお金が回らなかったので、助成金や中間支援、起業支援をして収入を得ていました。
具体的にどんな事業を始めようかというのはまだなかったので、いろいろトライ&エラーしながらやっていました。
― 助成金や補助金はなかなか取れないと思うのですが、何かコツがあるのでしょうか?
立ち上げた当初、男性で”家事シェア”というテーマで起業している方がいなかったので、助成金などが取りやすかったというのはあると思います。
当時は、まだ賛否が分かれていて、「いいね」と言ってくださる方はすごく応援してくださったのですが、「何をわけのわからんことをやってるんだ」という人もいました。
あとは「それは大事なことなの?」とか「それで飯が食えるの?」みたいな意見を頂くこともありました。
― 周りの声にめげそうになったり挫折しそうになったりということはありましたか?
「このまま続けていけるのかな?」と感じることはあったのですが、やめたいと思うことや、自分はなぜこれをしているんだろうという迷いはなかったですね。
「インスタ映えしなくていいんですよ」ってよく言っています
― 家事シェアというアイディアが事業化していったのは、奥様との出会いも影響していますか?
元々僕自身の思いとしては、住まい手さんにとって心地良い間を作りたいっていうものはありました。ですがマンションなどの内装工事を下請けのように請け負っていると、自分の仕事が住まい手さんにとっての居心地の良さに、どれくらい繋がってるんだろうという疑問を抱いていました。
特にマンションの工事などをやってると全部同じような間取りで、お客さんの顔も見えません。
自分の仕事に疑問を持っている中、当時NPOで働いていた妻に出会い、どうやら仕事には”ビジョン”ってものがあるらしいぞ、と(笑)。
社会を良くするために働いている人たちがいるらしい、ということを知ったんです。
― 元々ご自身でも良い家を作りたいという想いがあって、そこに社会に良いことをされている奥様と出会ってエッセンスが加わり、家事シェアというカタチになった、と
そうですね。自分のやってる仕事に疑問を持ちたくないなっていうのが、当時出てきた気持ちでした。
「仕事だから仕方がない」「仕事ってそういうものだ」「仕事は楽しいものじゃない」という言葉は、周りの人もそう言っていましたし、自分でもそう思っていたんですけれど。
妻と出会った時、そうではない働き方があって、自分の仕事に疑問を抱かず、これは必ず意味があることだし、誰かを幸せにできると全力で信じて働けるなんてことがありえるのだ、ということを知りました。
そこに関しては、徹底的に考え、悩みました。だからこそtadaimaを辞めたいと思ったりしたことがないのかなと思います。
― 家事シェアを 生活に取り入れたらどのように変化するのかをお伺いしたいです
例えばお家の模様替えなどもお手伝いしていたりするので、そこはダイレクトに変化が見えます。
コロナ渦で在宅ワークが増えた時に、以前模様替えをしたお客様から「あの時模様替えしておいてよかった!」って言う声は頂きました。
それは部屋が綺麗になったから良かったです、ということだけではないんです。
模様替えをする前に、どういう風に暮らしていきたいのかという話を、家族でしてもらうんですよね。子どもも含めてリビング学習どうしようとか、働き方をどうしようとか、パパが子ども
の準備を一緒にできるようするためにどうしたらいいだろう…。、っていうのをみんなで決めていたので、 在宅ワークになってもすごくスムーズだったみたいな話を頂きました。
やはりお互いに話ができる土台みたいなものを作ることが、改めて大事だなと感じています。
模様替えは直接生活が変わる部分でもあるので、どういう暮らしをしていくのかを考えることが、夫婦にとっても家族にとって大切だと、このステイホーム期間中に改めて再確認ました。
― もはやインテリアや内装もひとつの手段で、どういう生き方をしてきたいのかということを、家事シェアを通じて伝えているという事なんですね
部屋が綺麗になることももちろん大事なんですけれど、おしゃれな家にすること以上に、その家族にとっての暮らしやすさみたいなことを見つけることが、すごい大事なんですよね。
「インスタ映えしなくていいんですよ」ってよく言っています(笑)。
▼後編につづく
Interview by Yuka Yanagisawa/Text by Azumi Nozaki