自分を支えてくれているし、一つの目指すべき指標でもあるのかな
― 5年前にママプレナーズで取材させて頂いたのですが、この5年間の変化について教えてください
そうですね。この5年間はだいぶ変わりましたね。 事業自体は変わっていません。5年前も家事シェアを啓蒙するために、講座をもち、模様替えサービスをしたりしていました。
おかげさまで最近は講演の本数が多くなったというのはあります。
また、3年前東京にいた時は、人を増やして、啓蒙する担い手を増やすということをやっていたのですが、なにぶん京都に来ちゃったので(笑)
いい感じである程度手放して、事業規模としては京都に来てから縮小した感じがしています。
その代わり、教育分野に対する興味関心がすごく高まりました。今、僕や妻がやろうとしてるのが「小学校をつくろう」っていう動きなんです。
もともと僕自身は「居場所」に昔から関心がありました。
娘が保育園から幼稚園を選べる年齢になったときに、色々な教育環境について調べたり勉強を始めたんです。夫婦でもっと違う環境で育ててみようという話をして、京都に行かせたい幼稚園があったから移住してきました。
元々は鳥取県にある森の幼稚園に行かせようと思い、家も決めてたんですけど、直前になって幼稚園側の運営が変わって、夕方のあずかり保育ができなくなってしまったんです。
うちは共働きだからそれでは行かせられないとなって、その時京都にある幼稚園を紹介してもらい見学に行ってみたらすごくいいところだったんで。
「じゃあここに引っ越そう」となりました。
その時に、幼稚園の先にある小学校ってすごく大事なのに、あんまり多様性がないよねという話になりました。個人的に子ども達の居場所というものに、すごく興味を持つようになりました。
僕は小学校時代にずっといじめを受けていて、学校に対する不信感みたいなものが結構根強くありました。
そこで移住のタイミングで「小学校をつくろうか」と。
また、今不登校に関しても関心が高くなっているので、どういう形になるかわからないけれども、何か携わる活動みたいなものもやっていきたいなと思っています。
― 今つくろうと思ってる小学校はどんな小学校なんですか?
一番大事にしたいのは、子どもたちがどれだけ、何を学ぶかということよりも、学ぶための方法・カタチをどうやって身につけていくのかっていうことが大事だと思っています。学力はもちろん大切ですが、学び方を学ぶことは、それこそ一生使える子どもにとっての財産になります。
なのでぼくたちは、好奇心の芽を摘み取らず、少しでも育めるように、子どもが夢中になれることをサポートしていく環境をつくりたいのです。
子どもたちが何を学ぶかって言うことを決め、大人がそれをデザインするというよりも、子ども子ども達が自発的に学んだり、興味をもつ仕掛けをちゃんと作ってあげることを大事にしていきたいです。
来年開講予定で、教育のプログラム自体はすでに整っています。何箇所か学校のベースとなる場所を下見に行く予定だったんですが、コロナで行けず動きが取れなくなっていて…。今は場所をどこにするか決めるところまで来ています。
― 家族の協力体制はどのようになっていますか?
僕自身が、 NPOを作るということを含め、こういう働き方をしようと思ったのは妻の影響も大きいかったです。そういう意味で言うと、自分を支えてくれているし、一つの目指すべき指標でもあるのかなと思います。
具体的に日常生活でどのようにしてるかと言うと、我が家はフェアであることを大前提にしています。
僕が大変な時はやはり家事、育児を妻が担ってくれています。
僕が起業する、収入がなくなるという時も、あの一言がなければ、僕は起業しなかったと思うんです。きっと中途半端なことをしてしまっただろう、と。
やはりそういう風に背中を押せる人は、中々いない気がします。
― 大体の方が反対されるでしょうね
僕自身は「仕事とかお金とかいいから、結婚しようぜ!」みたいな感じだったので、ほっとした、安心したという感じがありました。
そういう意味では、タイミング、タイミングで妻にすごく助けられています。
一方、京都に来てから、学校を作るという話になった時に、妻が2ヶ月間インターンに行くことになりました。東京に2ヶ月間缶詰なので、僕は京都で娘と2人っきりでずっと過ごしていました。
もし僕があまり家事や育児に携わっていなくって、「お前がいなくなったらどうするんだ!無理じゃないか!」みたいな状態だったとしたら、彼女にとって
せっかくのチャンスが生かせず無駄になっていたかもしれない。
その話が決まった時「じゃあ娘と2人で2ヶ月楽しもう!」みたいにできたことが,
本当によかったです。
逆に妻が帰ってきてから、僕は2ヶ月間、神戸にあるオルタナティブスクールに通いだしました。
僕自身は通いだったのですが、朝5時に出て、夜9時に戻ってくるような状態だったので、当然家には居ないような状態が続きます。
その間、妻がずっと娘をみてくれていて、僕は家のことは全然心配しなかった。
やはり、お互いが家事や育児をきちんとできる状態じゃないと、お互いのしたいことを実現することが無理ってなりますよね。
お互いがしたいと思ったことを、子どもが足かせにならずに進められるというのは、よかったと思いますね。
お互いの妥協点を探るってすごく大事だなと思います
― お話を伺いながらすごく共感する部分がありました。結婚しているから片方が楽になるということではなくて、お互いがちゃんと自立していないと、うまくいかないんじゃないかなって。人間的にも成長していかなきゃいけないよね、というところに行き着くのかな?と
僕たちが言いたいのは、「家事を時短してやりましょう」とか「夫をうまくコントロールしましょう」「教育しましょう」とか、そういうことではないんですよね。
お互いの関係性をつくっていくことがすごく大切だよ、ということが一番言いたいことなんです。 ただ、ぶっちゃけあんまりキャッチーじゃないじゃないですか(笑)?
「こういうふうに言ったら、夫が思い通りに動きます!」みたいな方がキャッチーですよね。
コミュニケーション・対話が大切と言っていると、まどろっこしく感じられたりして、伝え方に迷った時期もありました。
ただ、若干手法を伝えることに走りかけた時に、違和感があったんですよね。
手法の話しをし出したら、自分より上手な人はたくさんいる。
キャッチーではないかもしれないけど、僕としては芯を食ったことをやっていきたいなと思いました。なかなか上手に伝わらなかったりしても、そこはブレずに言い続けようと思っています。
― 今までご夫婦の間でこんな風に意見の相違を乗り越えてきた、という体験があればぜひ教えてください
意見がパックリ割れたのは一回だけ。京都への移住についてでしたね。
元々鳥取に行こうという話で進んでいて、僕としてはて気持ちを決めていたので、幼稚園の預かり保育で課題が出てきた時に、鳥取で解決法を模索した方がいいんじゃないのか、という想いでした。
でも、妻はもう鳥取には行かない派だったんです。
突然何の縁もゆかりもない京都の話を持ってきて、なんで京都なんだよ!みたいな(笑)笑。
そこは意見がパックリ割れたんですね。
幸い、言い合いとか喧嘩にはならなかったんですが、その理由は妻がバーといかに京都が素晴らしいかという話しをしてきて。聞いていたら、僕もムカついてきちゃって完全にシャットアウトしちゃったんです。
彼女はその時自分は言い過ぎたぞ、ということに気づいたみたいで。
僕は色々考えたり決断するまで時間がかかるタイプなんです。
そこで彼女は「私が言いたいことは言い切ったから、しばらく待つ」って言ってくれたんです。
そこから彼女がすごかったのが、3、,4日くらい一切その話をしなかった。
何もなかったかのように、僕が言い出すのをずっと待っていてくれました。
その間、僕は自分は鳥取がいいと思っている理由や、妻の言っていることの矛盾点を、全部携帯のメモに書きました。
書いてるうちに冷静になってきますよね。書くってすごく大事だなと思っています。
書き出すと、自分の感情的な部分と、ちゃんと話合わなくてはいけない部分がふるいにかけられるんですよね。
3、4日くらいたって、携帯のメモを片手に持ちながら、彼女に話をしようと持ちかけました。その時一つだけお願いしたのが、自分の話を一旦最後まで聞いてほしい、ということでした。
聞いているうちに、相手に言いたいことが出てくるじゃないですか。でも君のターンはもう終わって僕のターンだから、最後まで聞いてほしいとお願いしました。
彼女を論破するのはやめようと決めていて、何を考えなくちゃいけないのかということだけ論点を絞って、1時間ぐらい僕はずっと1人で喋ってました。
全部言いたいことを最後まで言い終わった後に、僕、京都に行ってもいいな、って思ってたんですよ(笑)。
そこまで鳥取に固執する必要はないし、一回京都に行ってみてもいいんじゃないかと思いはじめていました。
自分で喋って、自分で結論を出す。自作自演ですよね。
1回見に行ってみてあまりにも合わなかったら辞めよう、と。だた、もう京都に行った時点で9割がた京都になるだろうな、と思ってました。
最後まで相手の話をちゃんと聴く、論破しないようにするということは、意見がぱっくり割れた時にすごく重要だなと思いました。
話してる途中にいろいろ口を挟むから、話が色々なところに飛んじゃうんですよね。
また、論破して主張を通した後、何か大変なことが起こった時に、相手のせいになっちゃうんです 。「あなたがあの時こう言ったから…」って。
論破してしまうって、あまりいいことはないと思うんです。お互いの妥協点を探るってすごく大事だなと思います。
お互いが譲り合い、寄り添うから、納得いかないことがあったとしても、なんとか乗り越えていけるのかなって思いますね。
■三木智有さんの著作
家事でモメない部屋づくり(ディスカヴァー・トゥエンティワン,2020)
Interview by Yuka Yanagisawa/Text by Azumi Nozaki